• image: 竹岡 彩

このたび受賞の対象となった研究について、その意義やインパクトを簡単にご紹介いただけますか。

脳や脊髄を含む中枢神経系は、麻痺や脊髄損傷後の運動機能の回復や、自転車に乗るといった運動学習の長期的な保持に重要な役割を果たしています。 しかし、こういった機能を説明する神経回路メカニズムの詳細は、まだ十分に解明されていません。
私の研究では、脊髄回路がどのように感覚運動の変換や運動記憶の形成に関与しているかを明らかにしようとしています。
損傷後に特定の神経回路がどのように再編成されるか、またそれらが回復と学習の両方をどう支えているのかを解明することで、脊髄を単なる情報伝達の中継地点ではなく、能動的な計算中枢としてとらえようとしています。
こういった考え方は運動障害に対する、より効果的なリハビリテーションの方法や、治療法の開発に重要な示唆を与えるものだと考えています。

この研究には、何年くらい取り組まれましたか。

それはもう、本当に長い時間です! 私はUCLAでの大学院時代から、かれこれ20年以上このテーマに取り組んできました。これまでも長い道のりでしたが、機会さえいただければあと30年はこのテーマを追求していきたいと思っています。

研究を進める中で、最も大きな困難や課題は何でしたか。

最大の課題の一つが生体内での脊髄生理学の研究が、技術的にも、概念的にもとても難しかったことです。脊髄は歴史的に脳よりも研究が難しい領域でした。そこで、自然な覚醒行動中の脊髄での神経活動を測定するために、新しい実験手法を開発する必要がありました。
別の課題は脊髄を単なる受動的な情報伝達経路ではなく、学習や情報処理を担う能動的な部位として捉えるという、従来の考え方から視点を変えてみる事でした。そのためには技術革新だけでなく、まだ広く受け入れられていなかったアイデアを粘り強く追及し続ける姿勢も必要でした。

この成果を達成するうえで、最も印象に残っていることや、やりがいを感じた瞬間は何でしたか。

特に大きな達成感を得られたのが、運動をする時や運動学習の過程で個々の脊髄ニューロンがどのように変化するかを直接観察できた瞬間です。これは、脊髄が学習や記憶に関して能動的な役割をはたしている事を示す明確な証拠になりました。
同じくらい印象的だったのが、才能ある若手研究者たちと一緒に研究できたこと、そして長年積み重ねてきた努力が少しずつ新たな知見に結びついていくのを目の当たりにすることができたことです。科学的発見は多くの場合、少しずつ積み重ねられていくものです。だからこそ、一つの絵が見え始めるところまで到達できると、格別な充実感があります。

この賞を受賞されたことは、ご自身にとってどのような意味がありますか。

今回の受賞を大変光栄に思います。長年にわたる研究の積み重ねの成果であると同時に、幸運にも一緒に研究する機会に恵まれた素晴らしい恩師やチームメンバーの支えによって実現した受賞だと思います。この受賞によって、根本的な問いに挑み続け、今後さらにこの研究の意義と影響を広めていきたいという決意を新たにしました。

この研究が今後、この分野にどのように貢献していくことを期待されていますか。

この研究が、神経系の中で運動機能がどうやって学習され、記憶され、そして回復されるのかという理解をさらに深めることにつながれば、と願っています。これらの過程における脊髄回路の役割を明らかにすることで、生体が本来備えている回復能力をより効果的に引き出す、新たなリハビリテーション戦略の開発につながる可能性があります。
長期的には、こうした知見が基礎神経科学と臨床応用との橋渡しとなり、最終的には運動障害を抱える患者さんに対する治療法の改善に貢献できることを期待しています。

若手研究者や学生の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。

キャリアの選択や、科学においてどういった問いを追及するかについて、唯一の「正解」というものはありません。大切なのは、その過程に真摯に向き合い、長い時間をかけて取り組む覚悟を持つことです。
周りにある様々なチャンスを見逃さず、思い切った一歩を踏み出すことを怖がらないでほしい。勇気をもって飛び込むことで、自分でも予想していなかった新たな可能性につながることもあります。長い目で見れば、やればよかったと後悔するより、その一歩を踏み出すことの方がきっといい結果につながるはずです。


神戸賞 Young Investigator(Y.I.)賞

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