このたび受賞の対象となった研究について、その意義やインパクトを簡単にご紹介いただけますか。
今回の受賞対象である「大脳新皮質における知覚情報処理機構の研究」は、大脳新皮質が外界からの感覚情報をどのように処理し、知覚や記憶などの脳機能へ結びつけているのかを、細胞、局所回路、広域ネットワークという異なる階層をつなぎながら明らかにしてきた研究です。特に、正確な触知覚を支えるトップダウン回路を見いだし、その同じ回路が睡眠中の記憶固定や情動による記憶強化にも関わることを示せた点は、新皮質における情報処理を統一的に理解するうえで重要な意味を持つと考えています。また、その理解を支えるために、in vivo ファイバーフォトメトリー法や広視野二光子顕微鏡などの計測技術開発も進めてきました。
この研究には、何年くらい取り組まれましたか。
主に今回評価していただいたのは理研での研究成果だと思いますが、その土台にある問題意識や研究へのモチベーションは学生時代から育まれてきたものです。そう考えると、この成果は理研での十数年に加え、学生時代からの経験も含めた四半世紀の積み重ねの上に成り立っているのだと思います。
研究を進める中で、最も大きな困難や課題は何でしたか。
最も大きな課題の一つは、問いに必要な実験系や計測技術を、既存の方法だけに頼らず自ら立ち上げていくことでした。学生時代の実験系構築に始まり、スイスでは研究室として初めて本格的に in vivo 実験へ踏み出す時期にその立ち上げを担い、理研でも広視野二光子顕微鏡の開発に取り組みました。新しい道具を作れば、それまで見えなかった新しい景色が見えてきます。しかし、その道が本当に開けるのか、挑戦の途上では誰にも分かりません。上手くいく保証のない道を進むことは決して楽ではありませんでしたが、その先に広がるはずの新しい景色を思い描きながら突き進むことこそ、私にとって研究の醍醐味であり、大きな挑戦だったと思います。
この成果を達成するうえで、最も印象に残っていることや、やりがいを感じた瞬間は何でしたか。
一つには、学生時代に抱いた「細胞活動とネットワークを一体として理解したい」という思いが、少しずつ具体的な研究として形になっていったことです。もう一つは、理研で見いだした一つの回路が、触知覚だけでなく、睡眠中の記憶固定や情動による記憶強化といった異なる脳機能にも関わることが見えてきた瞬間です。個別の成果ももちろん嬉しいのですが、ばらばらに見えていた研究が、時間をかけて一本の線でつながってきたと実感できたことが、最も印象に残っています。
この賞を受賞されたことは、ご自身にとってどのような意味がありますか。
塚原仲晃先生のお名前を冠した賞を頂けたことは、大変光栄であると同時に、身の引き締まる思いでもありますまた、本賞のこれまでの受賞者の先生方のお名前を拝見すると、錚々たる先人ばかりであり、その列に加えていただくことの重みを改めて感じます。先人の業績に少しでも近づけるよう、これからも誠実に研究を積み重ねていきたいと思っています。
この研究が今後、この分野にどのように貢献していくことを期待されていますか。
今後は、この研究が、大脳新皮質における知覚情報処理を、細胞・回路・ネットワークを横断して理解するための土台になればと期待しています。また、一つの回路が複数の脳機能にどう使い分けられているのか、あるいは広域ネットワークの統合と分離が知覚や意識とどう関わるのか、といった問いをさらに発展させる出発点にもなってほしいと思います。加えて、計測技術の面でも、今後の神経科学研究を支える基盤として役立っていくことを願っています。
若手研究者や学生の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。
若い研究者や学生の皆さんには、自分の専門を配属先だけで決めてしまわず、その殻に閉じこもらずに、面白いと思った知識や技術を積極的に学びに行ってほしいと思います。私自身、学生時代には回り道のように見える経験をたくさんしましたが、今振り返ると、それらが研究の土台になっていました。自ら足を運び、手を動かして異なる方法を学ぶことは、論文を読むだけでは得られない視野を与えてくれるはずです。
このほかに、何か伝えたいことがあればぜひお聞かせください。
研究は決して一人で進められるものではなく、多くの方々との出会いに支えられてきたものだと改めて感じています。恩師や共同研究者、研究室の仲間だけでなく、同期や先輩・後輩研究者、さらに事務の皆様からも多くの示唆や刺激を頂いてきました。今回の受賞は、そのような方々への感謝を改めて感じる機会でもありました。誠にありがとうございました。



