2024年ノーベル物理学賞について、甘利 俊一 栄誉研究員・第二代脳科学総合研究センター長からのコメント
2024年10月10日
本年度のノーベル物理学賞が人工知能分野のジェフリー・ヒントン、ジョン・ホップフィールドの両博士に贈られたことは大変に喜ばしい。物理はもともと「物の理」を考究する学問であるが、これが「事の理」ともいうべき情報の理にまで幅を広げたのである。まさに物理は越境する。人工知能と神経回路網理論研究の源流は日本にもあり、その成果が国際的に活かされて今日のAI時代を迎えた。
ヒントン博士は多層神経回路網の確率降下学習法に始まり、ボルツマン機械、情報の統合、その他多くの画期的な仕事を成し遂げたのみならず、神経回路網を深層にすることで高度の情報識別が行えることを予見し、これに数々の工夫を加えることで画期的な成果を挙げた。人工知能の新しい道を切り開いたのである。
ホップフィールド博士は、神経回路網における連想記憶を提唱して、その容量をコンピュータシミュレーションにより導いて、この分野に多くの理論物理学者を惹きつけた。連想記憶の考えはさらに一般化して、大規模生成モデルにおけるアテンションの機構として今日利用され、注目を集めている。
私たちはこの快挙に喜ぶだけでなく、AIの発展が社会の、そして人類の文明に及ぼす影響にこれから心を砕かなくてはならない。
甘利 俊一
1936年1月3日生まれ。東京都出身。数理工学全般に興味を持ち、これまでに位相幾何学による回路網理論、微分幾何学を用いた連続体力学(物理空間論)、情報理論、学習及びパターン認識、神経回路網理論などを研究してきた。
近年は統計学、システム理論、情報理論などに共通の理論的基盤を与える「情報幾何学」を提唱しこれに基づく情報数理の体系を構築している。これらの業績により、AI研究分野における先駆者として国際的に知られている。
これまでに、日本学士院賞、瑞宝中綬章受章、文化功労者、文化勲章など、多数受賞。
経歴
1996年4月− |
東京大学 名誉教授 |
1994年10月1日−1999年9月30日 |
理化学研究所国際フロンティア情報処理研究グループ グループディレクター |
1999年10月1日−2000年3月31日 |
理化学研究所脳科学総合研究センター 脳型情報システム研究グループ グループディレクター |
2000年4月1日−2003年3月31日 |
理化学研究所脳科学総合研究センター 脳型情報システム研究グループ 領域ディレクター |
2003年4月1日−2008年3月31日 |
理化学研究所脳科学総合研究センター センター長 |
2006年4月1日−2009年3月31日 |
理化学研究所脳科学総合研究センター 甘利ユニット ユニットリーダー兼務
|
2008年4月1日−2018年3月31日 |
理化学研究所脳科学総合研究センター 特別顧問 |
2009年4月1日−2017年3月31日 |
理化学研究所脳科学総合研究センター 脳数理研究チーム チームリーダー |
2017年4月1日− |
理化学研究所 名誉研究員 |
2018年4月1日− |
理化学研究所 栄誉研究員 |