嫌な経験がどのように神経回路とその表現を変化させて情動の記憶が形成されるかを研究しています。
Joshua Johansen, Ph.D.
学習・記憶神経回路研究チーム チームリーダー
joshua.johansen [at] riken.jp
研究内容
私たちが日々経験する出来事は、脳内に生理的な変化をもたらし、その結果として記憶が形成されます。しかし、私たちは日常生活において絶え間なく感覚的情報を浴び続ける中で、そのほとんどを覚えていません。それでは「多くの経験が忘れ去られてしまう一方で,なぜ特定の経験だけが記憶として脳内に貯蔵されるのでしょうか?」その問いに答えることが当チームの最終目標です。
快い経験や不快な経験は、脳に対して、いつその経験が記憶され、そして思い出されるべきであるのかを伝え、記憶の貯蔵が生じる強力なきっかけを作ります。その際、快・不快に関する体験は記憶の形成をもたらす脳内変化を引き起こす、「神経教師信号(teaching signal)回路」を活性化させるのです。感覚や運動に関する神経回路に比べて、嫌悪的経験が神経教師信号へと変換される脳内回路およびそのメカニズムについては、現在のところ全く研究が進んでいません。 私たちは連合学習とその記憶の神経回路メカニズム一般に関心がありますが、特に嫌悪的経験が行動的恐怖条件づけを引き起こす神経プロセスについて検討することで、教師信号の研究に焦点を当てています。そのため、我々は哺乳類における嫌悪的記憶を行動レベルで研究するのに最適なモデルであり、よって嫌悪的な教師信号回路とそのメカニズムについて調べるための理想的なシステムである恐怖条件づけを行動課題として用います。当研究チームでは、教師信号回路を直接操作するための最先端のオプトジェネティクス(光遺伝学)法、そして学習中に回路内のニューロンによって行われる情報処理計算について調べるための in vivo(生体内)電気生理学的手法を含む複合的アプローチを用います。
私たちの研究目標は、嫌悪的記憶の形成をもたらす神経回路、回路を形成する各部位の神経細胞による情報処理の計算論、神経回路活動とその計算論の関係性、そして嫌悪的経験が記憶貯蔵領域における神経可塑性をもたらすメカニズムを明らかにすることです。このような研究を通して、私たちは適応的行動に関与する神経回路機能の一般原理、そして神経における情報コードや可塑性を明らかにすることを目指し、その成果を不安障害や慢性疼痛症に対する新しい治療法の提案に繋げていきたいと考えています。
キーワード
- 神経調節
- 神経信号
- 行動
- 記憶学習
- 情動
主要論文
- Yeh LF, Ozawa T, Johansen JP
"Functional organization of the midbrain periaqueductal gray for regulating aversive memory formation"
Molecular Brain, 14, 136 (2021)
10.1186/s13041-021-00844-0 - Likhtik E, Johansen JP
"Neuromodulation in Circuits of Aversive Emotional Learning"
Nature Neuroscience, Nov;22(11):1946 (2019)
10.1038/s41593-019-0503-3 - Luo R, Uematsu A, Weitemier A, Aquili L, Koivumaa J, McHugh TJ, Johansen JP
"A dopaminergic switch for fear to safety transitions"
Nature Communications, 2483 (2018)
10.1038/s41467-018-04784-7 - Yeh L-F, Watanabe M, Sulkes-Cuevas J, Johansen JP
"Dysregulation of aversive signaling pathways: a novel circuit endophenotype for pain and anxiety disorders"
Current Opinion in Neurobiology, 48:37-44 (2017)
10.1016/j.conb.2017.09.006 - Uematsu A, Tan BZ, Ycu EA, Sulkes-Cuevas J, Koivumaa J, Junyent F, Kremer EJ, Witten IB, Deisseroth K, Johansen JP
"Modular organization of the brainstem noradrenaline system coordinates opposing learning states"
Nature Neuroscience, Advance Online Publication (2017)
10.1038/nn.4642
- Featured in Nature Neuroscience News & Views 20(11), 1517-1519 (2017) - Ozawa T, Ycu EA, Kumar A, Yeh L-F, Ahmed T, Koivumaa J, Johansen JP
"A feedback neural circuit for calibrating aversive memory strength"
Nature Neuroscience, 20(1):90-97 (2017)
10.1038/nn.4439 - Madarasz TJ, Diaz-Mataix L Akhand O, Ycu EA, LeDoux JE, Johansen JP
"Evaluation of ambiguous associations in the amygdala by learning the structure of the environment"
Nature Neuroscience, 19:965-972 (2016)
10.1038/nn.4308 - Herry C, Johansen JP
"Encoding of fear learning and memory in distributed neuronal circuits"
Nature Neuroscience, 17(12):1644-54 (2014)
10.1038/nn.3869 - Johansen JP
"Neuroscience: Anxiety is the sum of its parts"
Nature, 496(7444):174-5 (2013)
10.1038/nature12087 - Johansen JP, Tarpley JW, LeDoux JE, Blair HT
"Neural substrates for expectation-modulated fear learning in the amygdala and periaqueductal gray"
Nature Neuroscience, 13(8):979-86 (2010)
10.1038/nn.2594
プレスリリース・メディア
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【ニューロスクエア】Joshua Johansen “脳の神経回路で生まれる感情”
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第九回 Joshua Johansen It's a Big, Wide, Wonderful World♪-旅に出て 広い世界で見つけた自分だけの道 前編
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第九回 Joshua Johansen It's a Big, Wide, Wonderful World♪-旅に出て 広い世界で見つけた自分だけの道 後編
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恐怖記憶を抑制するドーパミン信号
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ノルアドレナリン神経の多様性を発見
-恐怖記憶とその消去には異なるノルアドレナリン神経が関与-
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過剰な恐怖を抑制するための脳内ブレーキメカニズムを解明
-光による神経抑制操作によって恐怖記憶が増加-
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「2度あることは3度あるか?」を脳が計算
-情報の曖昧さが扁桃体で計算されている-
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怖い体験が記憶として脳に刻まれるメカニズムの解明へ
-扁桃体ニューロンの活動とノルアドレナリンの活性が鍵-
メンバーリスト
主宰者
- JOHANSEN Joshua
- チームリーダー
メンバー
- GU Xiaowei
- 研究員
- 大貫 朋哉
- 特別研究員
- SICRE Mehdi Julien
- 特別研究員
- GUNGOR Nur Zeynep
- 基礎科学特別研究員
- 渡邉 真弓
- リサーチアソシエイト
- SULKES CUEVAS Jessica Natali
- リサーチアソシエイト
- YEH Li-Feng
- リサーチアソシエイト
- 春日 優佑
- リサーチアソシエイト
- 石津 有理
- テクニカルスタッフⅠ
- 吉田 玲子
- テクニカルスタッフⅠ
- GOYA Yuki
- テクニカルスタッフⅠ