脳をつくるLegoブロック
2018年7月6日
細谷 俊彦, アマンダ・アルバレス
スーパーコンピュータは無数のCPUモジュールが連携して情報を処理する超高速計算装置である。それと良く似た仕組みが脳の中に存在することが明らかになった。脳内でCPUモジュールに相当する単位を“マイクロカラム”と呼び、ちょうど子供たちに人気のレゴ社の小さなブロックをつなぎ合わせていくように、普遍的なモジュール同士が連携してさまざまな情報を処理していることがわかった。
大脳は人間の脳で最も大きなエリアを占め、ニューロンと呼ばれる情報を運ぶ細胞が約100億個存在している。これらのニューロンが作る回路の解明はまだ道半ばである。ここでの根本的な問いは、少数のニューロンが一つの単位となるモジュール回路をつくり、これがCPUやレゴブロックと同じように繰り返して存在しているのか、というものだ。また、同じ構造をしたモジュールが視覚や聴覚、意思決定や記憶などの多様なタスクを共通に処理しているか、という問いも重要である。もしそのようなモジュールが存在すれば、脳の複雑かつ美しい機能を理解するための基軸となるだろう。
半世紀以上も前、脳神経科学の先駆者であるHubelとWieselは、脳の表面に対し垂直方向に並んだ細胞は似た視覚パターンに応答することを発見した。この垂直に並んだニューロンの“カラム(列)”はネコやサル、ヒトなどの大脳で見つかり、脳内を構成するモジュールである可能性が考えられた。ところが、これらのカラムの機能は未だ謎に包まれている。また、これらのカラムが視覚をつかさどる脳部位以外にもあるのか、また哺乳類全般に共通しているのかはわかっておらず、普遍的なモジュールであるとは考えにくい。
あたかもスーパーコンピュータがもつ無数のCPUのように脳内に広く存在するモジュールをさまざまな新しい技術をもちいて探索し、今までは見落とされていたある事実にたどり着いた。マウスの大脳内の様々な場所で繰り返し存在する構造を見つけたのだ。この一つひとつを“マイクロカラム”と呼び、それぞれには約10個のニューロンが並んでいる。各カラムはニューロン1個~2個分の横幅サイズがあり、それぞれが6角形の格子を形作る。一つのマイクロカラムに収まったニューロンたちは共通な神経回路をもちその活動は同期している。つまりマイクロカラムは一つのモジュールとして機能しており、特定の情報を処理していることを示している。
非常にシンプルな仕組みの発見に聞こえるかもしれないが、ここまで解明するには10年以上の年月を要したことお伝えしたい。とにかくたくさんのマウス脳の極小サンプルを作製し、試薬で透明化し細胞の種類を見分けその位置を記録していくという気が遠くなるような作業だったのだ。
我々が観察したこの脳内の構造は、繰り返し存在するマイクロカラムが様々な脳機能を実現させているということを示すものである。さらにはそのうち一つのカラムを理解することは、その“繰り返す”という性質ゆえに、脳全体の機能の仕組みについて答えを導いてくれる可能性を秘めている。またその理論を利用して、様々な組み合わせの回路を試験的に作り観察し、脳に近い回路を組み立てていくことも可能だ。もちろん“脳をつくる”という作業はレゴを組み立てるようには簡単にはいかないし、CPUをつなげるだけの単純な作業でもない。しかし、今回の発見でまた少し目標に近づいたと言える。